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新潟家庭裁判所佐渡支部 平成11年(家)87号 審判

申立人 X

事件本人 A

主文

本件各申立てをいずれも却下する。

理由

第1本件各申立ての趣旨及び実情

申立人は、事件本人の姪であり、事件本人は、平成11年9月7日a病院医師Bから脳梗塞後遺症の診断を受けたものであるが、事件本人には法定の保護者がなく、事件本人の治療を受けさせるため、申立人を事件本人の扶養義務者に指定し、事件本人の保護者として申立人を選任するとの審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  事件本人は、平成11年9月7日脳梗塞後遺症の診断を受けた精神障害者であるが、事件本人の妻Cは昭和56年4月29日死亡し、事件本人に対しては後見人の選任もない上、民法877条1項に定める事件本人の扶養義務者としては、養子であるDが唯一人現存するものである。

(2)  申立人は、事件本人の兄Eの三女であり、事件本人とは親族3親等の間柄にあたる。申立人は、事件本人には一度も会ったことはないが、事件本人と同じ佐渡島内に居住することから、やむを得ず事件本人の入院手続や財産管理等に協力し、その過程で病院から教示されて本件各申立てをしたが、本来ならば事件本人の養子であり、扶養義務者であるDが保護者としての役割をきちんと果たすべきであると述べている。

(3)  事件本人の養子Dは、昭和30年6月22日事件本人と養子縁組をしたものであり、山形県に居住し、新聞販売店を経営している。Dは、自身が事件本人の養子であり、扶養義務を負っていることは承知しているものの、養子といっても戸籍上のもので、事件本人とは数十年来音信不通であり、保護者に選任されることには戸惑いがあるが、病院から送付されてきた事件本人の入院等の承諾に関する書面に署名押印して返送することはしていると述べている。

2  ところで、事件本人に後見人、配偶者がなく、法定の扶養義務者が一人のみの場合は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律20条1項、2項の解釈上、家庭裁判所の選任を要するまでもなく、その者が法律上当然に保護者となると解されるから、本件においては、事件本人の扶養義務者として唯一人現存する養子Dが当然に事件本人の保護者となる。

なお、前記の事情から、養子Dが十分に保護者としての義務を遂行できるかどうか問題がなくはないが、もし適切に義務の遂行ができないときは、同法律21条の定めにより、事件本人の居住地を管轄する市町村長が保護者になるものと解されるのであり、事件本人の保護はこの規定によるのが相当であって、本件において、前記認定の事実に照らせば、申立人に民法877条2項の扶養義務を負わせてまで、同人を事件本人の保護者に選任しなければならないような特別な事情があるとは認められない。

3  よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 市川太志)

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